フロントウイングよりグリザイアの果実です。
このメーカーはゆきうた以来で久しぶりにプレイしたわけですが・・・いつの間にやら10周年なんですね。というかゆきうたがもう8年前とか時代の流れは早いものです。
公式のあらすじは抽象的でわかりにくいので、かいつまむと家庭や出生、人格、事件等様々な理由で普通の学園に通う事が出来ない生徒が集まる美浜学園に、やはり特殊な事情を持った主人公が転入してくるというお話。集まるといっても主人公を合わせて在校生はわずか6人。箱庭のように隔離された学園生活の中クラスメイトと親密になっていく主人公だが・・・。
といった感じ。
プロット自体はギャルゲーとしてはよくあるように親密になったヒロインのトラウマを主人公が解決してハッピーエンドへという王道的な展開が多いです。
キャラクターデザインは、化物語等で有名な渡辺明夫氏と過去のフロンウイング作品(うたシリーズ等)や智代アフターでも知られるフミオ氏。どちらも有名な方ですが、正直二人のデザインが違いすぎて最初違和感があったのは否めないですね・・・。特に渡辺氏でしょうか。フミオ氏は割と丸顔なのに対し渡辺氏は面長なので少しバランスが悪い感じがしましたねえ。最初にみちるが出てきた時と、榊が出てきた時に特にそう感じました。ディフォルメ絵はもちろん同じ人が描いてるので違和感なかったんですけどねw
まあキャラデザの違いに関しては、慣れればなんとかなるので許容範囲でしょうかね。立ち絵やCG自体の出来は中々高レベルでした。前述したディフォルメ絵もコメディシーンが多い本作ではすごく効果的でしたしね。というかフミオ氏はすごく安定して上手くなっているような・・・。
BGMもOPテーマもいいし、場面ごとにしっかりとした曲がチョイスされてる感じがして中々高評価。EDテーマもキャラごとに用意されているのでこの点は特に文句無し。
日常会話については近年稀に見るレベルで非常にテンポが良いです。今年No.1レベルの出来かも知れませんね。マキナとのやり取りはゆきうたの菜乃とのやり取りを彷彿とさせますw ビッチお姉さん、アホロリ、勘違いメイド、偽ツンデレとキャラも個性的ですしね。・・・こう見ると榊が一番普通の人っていう時点でこのゲームのキャラがおかしいことが分かります。特にマキナや幸との掛け合いは面白かったですね。あと、結構視点が一人称だったり三人称だったり移り変わるのですが、主人公がいなくても面白いという個人的名作ギャグゲーの関門を見事にクリアしています。主人公・風見雄二は、フルメタの相良宗介をユーモラスにしたようなキャラ。基本的に万能超人で博識で誠実でイケメンなのでモテるのもよくわかる。ただ世間的な感覚が少しズレていてどうしても「仕事」方面の知識から物事を考えてしまったりで、変人に扱われることも多いですがそこが面白いところでもあります。
ネタのチョイスやテンポ的には万人にオススメ出来るゲームではありますね。
で、シナリオですが、主人公含めて過去に色々ある人間しかいないので、各ヒロインルートに突入した後の展開は少し人を選ぶ内容があります。各ルートに分岐するまでの共通ルートは結構長いのですが、日常会話が楽しいので苦痛にはなりませんね。節々にシナリオに関連するような内容があるので、読み飛ばす気にもならないですしね。共通ルートはマキナ→天音→幸・・・というように段々各ヒロインルートに分岐していくので、順番通りにプレイすると殆ど既読部分を読むことがないと思います。こういうシナリオ構成は結構好みですね。
個人シナリオは5人全員所謂外れが無く、しっかりと作りこまれていてかつ演出も良いので個人的にはかなりの高評価。分量も共通ルートが長い割には多いですので感情移入度も高いです。後述の各シナリオ感想がやけに長くなってしまったのもシナリオが濃い証拠なのですw
総評:8点
ではネタバレ感想です。
入巣蒔菜
舌っ足らずでアフォな後輩。実は裏で日本を牛耳る程の大財閥・入巣家の御令嬢。最初はあまり気に入らなかったんですけど主人公に懐いたあたりからはかなり面白いキャラになりましたね。頭が悪いフリをしてるだけなので(天然な部分も多いですが)、ツッコミが辛辣だったりのギャップが面白いです。ハバネロ!とか意味がわからんギャグも多いですけどねw 基本的にはみちると同じくムードメーカーで日常シーンを引っ掻き回す役。
個人シナリオは一転して、入巣家の家庭の事情に関するものでシリアス。兄を卒業しマキナの父親になることを決めた雄二。マキナはパン屋のアルバイトに通い成長を見せました。ある日マキナが通うパン屋の商店街を訪れた高級車。そこにはマキナの父親違いの妹であり次期当主でもある、入巣沙里奈がいました。一方的には知っている沙里奈の顔に戸惑うマキナでしたが、沙里奈は車の爆破に巻き込まれ重症を負ってしまう。ここから入巣家の宗家と分家の争いに巻き込まれていきます。宗家からは時期当主として戻ってくるように説得され、分家からは命を狙われる日々。マキナの過去を知る主人公。マキナが抱えていたトラウマは、幼い頃に誘拐され、目の前で腐っていく自分の父親の死体と1週間過ごしたことに起因していました。マキナの母親を説得するも、やはりマキナは狙われ徒労に終わってしまいます。最後の手段として駆け落ちを選んだ二人でしたが、途中でマキナが犠牲になり病院に搬送されてしまいます。
・・・うーんこの辺は流石に空気を読んでくれよマキナよ・・・と言いたかったですね。幸に託された苗が大事だったのは分かりますがそれを一人で取りに行く行動が一番雄二に迷惑懸けてるのに。で、マキナとの明るい未来を実現するためにマキナの母親で元凶といってもいい入巣清夏を殺すことを決断する主人公。本社に単身忍びこみ清夏を殺すか否かの選択肢によってバッドエンドとトゥルーエンドが分かれます。
バッドエンドでは雄二は死亡し、マキナはアメリカでパン屋を営む傍ら、麻子、雄二と継承されてきた9029のコードネームを受け継ぎJBの部下だったキアルの元で働いていました。そのお腹には雄二の子が。・・・まあバッドエンド風味ではありますが、これもありかなと思わせるエンド。
トゥルーエンドでは清夏を見逃し本社ビルから逃げ出す際の怪我で左腕を失ってしまった雄二。ですがアメリカでパン屋と「仕事」を両立させるマキナと共に幸せに暮らしましたとさ。・・・ううむ中々シナリオとしては骨太で面白かったのですが雄二的にマキナに9029の引き継ぎをさせるのは良かったのか。そうせざるを得なかった状況ですし、これでも十分寛大な処置だったのもわかりますが・・・雄二のモノローグで後悔してるような描写がなかったのがちょっとね。バッドエンドでも9029を継承してしまっているのなら、トゥルーエンドでは違う展開にしても良かったんじゃないかなーと愚考。
ただシナリオ的には十分面白かったです。
周防天音
ただでエッチさせてくれる隣のお姉さん。・・・この紹介はどうなのよw
というわけですぐ雄二を誘惑してくるビッチですが基本的には世話焼きでよく気が効いて料理の腕の抜群で嫁スキル的には最強の天音。恋人同士になる過程はすこし勢いな感じもありますが、元々憎からず天音のことを思っていた雄二。蜜月な日々が続きますが、商店街で天音の過去の事を知っていて、毒虫と呼ぶ少女達の話を耳にした雄二。ずっと天音が自分にとって都合の良過ぎる女であったことが気になっていた雄二は天音に正直に打ち明ける。そして語られる天音の壮絶な過去。天音が食べ残しをしない理由や犬を飼えない理由もそれに起因していました。
天音は6年前、雄二の姉である風見一姫と同じバスケ部に所属していた。合宿でバスケ部を乗せたマイクロバスは不慮の事故で崖下に転落。怪我人や病人を抱えながらも数少ない食料を元に懸命に生きる彼らでしたがそれもやがて限界に。食人の禁忌まで起こし次第に狂っていく他のメンバーから逃げる一姫と天音でしたが、一姫は天音を逃がすために自らを囮にして犠牲になりました。罪悪感に苛まれながら一心不乱に逃げ続けた天音は奇跡的に国道へ逃れることが出来ました。その後、救助隊が現場に向かいましたがそこにあったのはバラバラ死体となった全員分の死体であり生き残ったのは天音唯一人でした。
そして天音は美浜学園で雄二と出逢う。自分のせいで滅茶苦茶にしてしまった風見家。天音は一姫への罪滅ぼしのために自分に全てを捧げていた事実を知った雄二。それでも自分が罰を与えることで天音の心の支えとなるのなら、と雄二は一生を共に過ごすことを誓うのでした。
一姫が最後に残したものを確かめに事故現場へ向かう雄二と天音。しかしそこには事故の犠牲となったバスケ部部長の父親が天音への復讐のために待っていました。不意を付かれ負傷した雄二は決断を迫られます。ここでバッドエンドとトゥルーエンドの分かれ目となります。
天音と別々に逃げるとバッドエンド。これは天音は死に雄二も部長の父親と相討ちというすごいバッドエンドなのですが、一姫の残したものが何かが判明します。一緒に逃げるとトゥルーエンドで隙を付いた雄二の活躍によって無事解決。その後二人は決して穏やかではないけれど幸せな家庭を築きましたとさ、というお話。
ラスボスが部長の父親というちょっとびみょんな展開ではありましたけど、天音の壮絶な過去といいかなり面白かったシナリオです。しかしラスボス戦は絶対一姫が助けに来ると思ったのになあ・・・ちょっと中二病過ぎたかしらんw というわけで天音シナリオで一姫が生きている可能性が少し出てきました。実際あのクーラーボックスって結末を語ってますし、生き残ってないと残せないですしね。ただ一姫の天才振りから展開を予想して予めあの手記を残すことも出来そうですし・・・本当のところはよくわからないですね。個人的な予想では逃げ出すために犯罪を犯して(例えば何人か殺してしまったとか)しまったので、生きていることを伏せて別の人間として暮らしているのかなあ、と思っています。とりあえず一姫はキャラ的にかなり気に入ってしまったので出来ればファンディスクとかで出して欲しいですねえ。車輪の璃々子お姉ちゃんみたいな感じ。ブラコンだし。
小嶺幸
みちるの辛辣な扱いに定評のある全ての依頼を完ぺきにこなす委員長にしてメイド。キャラ的にはマキナと並んで面白かったのでシナリオも楽しみでした。みちる様が大変です!落ち着け幸、まずはいいたいことだけを簡潔に言うんだ。え・・っとみちる様はバカです!みたいなやりとりが大好きw
幸はなんと王道の実は主人公と幼馴染み設定持ち。幸と「いつもの場所」で待ち合わせをした雄二でしたが幸は行方不明に。警察にも相談しますが一向に見つからないまま翌日へ。そして「いつもの場所」が覚えがあった雄二は幼い頃に「サっちゃん」と遊んだ公園へ。そこには丸一日以上も飲まず喰わずで待ち続けた幸がいました。幼い頃一姫の邪魔にならないよう一人で公園で遊んでいた雄二に声を掛けたサッちゃんは幸だった。幸は両親に褒められるのが嬉しくて勉強や掃除を頑張る子でしたが、両親の仕事が忙しくなり、中々相手をしてもらえず寂しい思いをしていました。そこで出会ったのが雄二。二人は毎日一緒に遊ぶようになり、やがて幸も淡い恋心を抱くようになりました。しかし幸せは長く続かず、雄二は家庭の事情で引っ越すことに。両親にも雄二にも嫌われてしまったと落ち込む幸。10歳の誕生日は両親が仕事も休んで祝おうとしてくれましたが幸は拒絶してしまいます。家を飛び出す幸。気づけば雄二と遊んだ公園に佇んでいました。そこへ幸を探しに来た両親がやってきますが、不慮の事故で父親は死亡、母親は意識不明の重体となってしまいます。
それから幸は自分が言う事を聞かない悪い子だったから全てを失ってしまった。だから良い子でいなければならない。そう思うようになり頼みごとをたとえ理不尽なことであろうと絶対にこなす人間になってしまった。美浜学園に来たのは中間テストをなくせというクラスメイトの要求に答えるために校舎に放火し、焼き払ってしまった過去があったためです。
幸の過去のトラウマを知った雄二。これを払拭するためには幸自身が大切なものを理解しなければならいと考えます。一方幸も雄二と海に行った際に出された課題をずっと考え込んでいました。
きっかけはみちるの一言。夏休み明けの学力テストを無くしてくれという些細な冗談でしたが皮肉にもそれは幸の美浜行きとなった事件の時と同じ依頼でした。学園の構造、規模等を熟慮し、学力テストを無くす方法を模索する幸でしたが、結局は前回と同じ方法を取ることに。学園に忍びこみ火を放った幸の前に現れたのは雄二。その方法では依頼を達成することは出来ない。だから俺が協力する、と。雄二の取った方法はプラスチック爆弾で爆破解体を行うこと。そしてその引き金は幸に引かせます。崩れ落ちる校舎。クラスメイトとの出会い、思い出、色々なことが詰まっていたはずの校舎を自らの手を崩壊させてしまった。幸は自分が流す涙の訳をようやく気づくことが出来ました。あーもーこの辺雄二イケメン過ぎるわw イケメン過ぎてムカつくわーw
で、幸のトラウマも払拭されめでたくハッピーエンドと思いきや、実はまだ終わらない幸シナリオ。幸せな生活を送っていたはずの幸は悪夢に襲われます。それは母親が事故の時に幸にいった幸、どうして・・・という言葉に起因するものでした。どうして言う事を聞いてくれなかったの?どうして良い子で居られなかったの?そう責める母親の幻影に幸は苦しまされていました。その悪夢を破るためには「殺す」しかないという雄二。何を殺せばいいのか?悩む幸は決断を要します。それは自分を殺すのか母親を殺すのか。前者を選んだ場合バッドエンドで幸の両親と同じような状況で幸が事故に遭ってしまうエンド。母親を選んだ場合、トゥルーエンドとなります。母親を一瞬殺そうとしてしまう幸でしたが思い直し、もう一度熟慮します。
そして悪夢を殺せばいいこと、それに気づきます。
両親が最後まで自分を愛していたのか、それとも嫌われてしまったのか。それを知る鍵は幸の実家の封鎖された工場ににありました。6年の時を経て扉を開けたそこには、幸の誕生日を祝う装飾が部屋いっぱいに飾られていました。母親が最後に伝えたかったことは恨み辛みではなくきっと「幸、どうしてもあなたに見せたかったものがあったの」という一言だったのだろう。あーこの辺は展開は予想してたけどさあ・・・けどさあ・・・演出が良すぎて結構泣けちゃいましたよ・・・。反則だわw
そして両親から幸への手紙。今までの謝罪とこれからの生活。未来への希望が綴られた手紙。好きな人が出来たら一緒に聴いて欲しいというオルゴール。幸は迷うこと無く雄二と一緒にそれを聞きたいといってくれました。
・・・ここで幸がボケやったら台無しになるところでしたが良かったw 幸ならラストシーンのなん・・・だと、といいやりかねないのでちょっとひやひやしたぞ!
グリザイアの果実はどのシナリオも良かったのですが、今のところ幸シナリオが一番良かったかも。
松嶋みちる
偽ツンデレにして弄られやくでムードメーカー。多分ヒロイン中榊と並ぶ乙女。
夏休みにあつらえたように二人きりになった雄二とみちる。この辺はちょっと粗っぽい感じはしましたがまあ許容範囲ですかね。とにかく夏休み中の恋人ごっこで急速に親密になる二人。・・・とはいうものの他のシナリオとは違ってみちるシナリオだと雄二が結構冷たいんですよね、ヒロインに対して。みちるのキャラ性もあるんでしょうけど、その辺はライターさんの違いかも。反面みちるはすごい可愛いキャラになっていたので少し可哀想になりました。
で、みちるシナリオはエンジェルハートみたいな感じ。心臓移植によって二つの人格を一つの体で共有することになってしまったというお話。最初は屋上で出会った「親友」の心臓を移植したのかと思ったんですけど、全然別の人間だったみたいですね。冷静に考えればそりゃそうか。
みちるは家庭教師から受けた虐待が原因で生きる気力を持たない人格が形成されてしまいました。「幽霊」とクラスで噂されるぐらい空気のような存在として過ごしていたみちるは、屋上で自殺しようとする女生徒と出逢う。二人は親友になって、色々な普通の学生らしいことを知るみちる。少しずつ心が開いていったみちるでしたがある日、親友は恋人に捨てられ、投身自殺をしてしまう。
みちるはその場で倒れ、元々悪かった心臓移植のために渡米することに。心臓移植の後、みちるの周りでは不可思議な現象が起こりました。自分に記憶はないのに友達が増えている、人に感謝される。それは自分の知らない自分。もう一人のみちるがみちるのためを思って行動した結果でしたが、それによってみちるは自分の存在意義を否定してしまいます。
で、過去話が終わった後、精神病院に検査入院することになるみちる。その検査前の選択肢によって結末が変わります。この辺はいまいちわかるようなわからないような感じですがw とにかく一緒にいてくれを選択するとみちるは投薬自殺を図り帰ってきた時は脳に異常をきたし、退行化してしまいます。キスを選ぶと表面上はもう一人のみちるに任せ、みちるは自分自身の暗闇の奥底に沈んでしまいます。
雄二は帰ってきたみちるに投薬(実はただのラムネ)し、本当のみちるの気持ちを問い正します。あーもう一人のみちるに名前がないからなんだか分かりにくいな・・・w みちるの葬式を強引に行い、土に埋める雄二。みちるはもう一人のみちると対話しながら自分が本当は生きたいことを感じ雄二に助けを求めます。雄二は三日三晩みちるの墓の前で待機していてすぐにみちるを墓から引きずり出してふぃーん。
・・・となる前にもう一人のみちるとの対話が待っています。彼女のやりたいこと。それは両親の顔を見たい。その願いを聞いた雄二は5分(マジで)で準備を整え、みちるをアメリカへ飛ばします。そこに待っていたのは父親はもういないものの一人で元気に暮らしているもう一人のみちるの母親でした。緊張して上手く気持ちを伝えられないもう一人のみちるに変わってみちるは気持ちを代弁します。あなたの娘さんは両親を愛していたこと。深く感謝をしていたこと。みちるのEDはやけにコミカルなテーマで幕を閉じます。
あーなんだ。とりあえずこのシナリオも超良かったです、本当にありがとうございました。最後の似顔絵とかあざといだろww・・・あざといだろ・・・。
性同一性障害モノは某ゲームとか某ゲームが記憶に新しいので、新鮮味は無かったですが、それらとはまた違って普通に良かったですね。少なくともSHUFFLEみたいなあらすじだけの投げっぱなしジャーマンとは比較になりません。このゲーム、タイトルとか雰囲気から予想されるほどの捻りだとかインパクトはないのですが、すごく丁寧に作られてて非常に好印象ですね。これはアニメ化してもいいものが出来そう。・・・うーんでも時間が足りないよなあ・・・。
榊由美子
さて大トリ。天然のツンデレにしてマキナ同じく大会社の御令嬢。みちると同じくらいピュア。元々由美子のために作られたようなものだという美浜学園。由美子の父・道昭は自分の傀儡として利用するため、由美子を引き戻そうと画策します。それは恐怖を与えて自分のもとに呼び戻すため、由美子の護衛として雄二を雇った上で何度も誘拐未遂を行うこと。自分のために何度も傷つきながら守ってくれる雄二に段々と心を開いていく由美子。・・・まあ過去が過去ですし、こんなに優しくされたらほれてまうやろーってのはわからいでかですが・・・由美子を始めとしてこの学園の子、基本的に惚れっぽい子が多すぎて心配だわ。あれか、雄二がイケメン過ぎるのが悪いのか。罪なのか。
ということで自分の過去を雄二に語る由美子。彼女の過去もまた壮絶であり、政略結婚の道具として道昭に嫁いだ由美子の母。しかし期待される男児を生むことも出来ず、また病弱であったのも影響して実家へ戻されてしまいます。そこでは祖父母からの辛い仕打ちや、学校での孤立化等、由美子にとって優しいものはありませんでした。唯一親身になってくれた、元奉公のとしえさんも病死し、その家族には疎まれる。追い打ちをかけるように振りかかる、父親の隠し子による離婚騒動。その精神的なショックから良好になっていた母親の病状も悪化してしまいます。そんな中で突然訪れる父親との同居生活。暖かい家、戸惑いながらも少しずつ良好になっていく父親との関係。母親の事を謝罪してくれた日から由美子と父親は本当の家族のように過ごします。しかしそんな日々も父親の隠し子の男児が急逝したことによる、代理品として由美子を利用するための偽りの生活だったことを知る由美子。何度も裏切られ続けた由美子はもう誰も信じることが出来ず、学校で刃傷沙汰を起こし、美浜学園へ転入することになった。
一向に心変わりしない由美子に業を煮やした道昭は、強攻策に出て、雄二の市ヶ谷からの護衛任務も解かれてしまいます。ですが既に雄二にベタ惚れの由美子は個人的な依頼で雄二を護衛に雇います。あれ・・・雄二の「会社」って個人的な依頼ってありなのか。まあこの辺りは終盤の頭すげ替え計画があったから容認されてたのかも知れませんね。次第にエスカレートしていく由美子の誘拐計画。雄二は腕に怪我を負ってしまいます。由美子はこれ以上自分のために傷つく雄二を見ることが出来ず、美浜学園に迎えに来た道昭のSP達に連れていかれます。それをただで見過ごす我らが主人公ではなく中野浩一ばりに自転車でかっとばし、ランボルギーニ・ガヤルド借りてぶっ飛ばし、単独で由美子を取り返します。なんなのこの超人w そこからは愛の逃避行。ちょっとマキナの2番煎じではありますけけどね。
マキナと同じく逃亡生活をしながら由美子は雄二に頼り切りの自分を許せなくなっていきます。このあたりはもう完全にデレ状態になってて可愛いのぅ可愛いのぅ。そんな自分に嫌気がさし、道昭に雄二だけは許してもらえるように連絡を取ろうとしますが途中で思い直します。けれどそこを付かれ、逃亡の身に。逃げる途中で由美子と約束した遊園地デートも果たした後、恒例の選択肢。このまま一緒に逃げるか、道昭と対峙するか。
由美子はバッドエンドもハッピー気味ではありますが父親との和解がないですね。対峙することを選ぶと榊道昭を社長の座から失脚させることに。市ヶ谷との利害も一致するためJBの協力を得た上で学園に道昭を呼び出す雄二。学園メンバーが表で工作し、そちらに目を向けさせておいてトップをすげ替える作戦は成功し、道昭は失脚します。
その後、美浜学園は学園長の計らいで取り壊すことは防ぐことが出来、学園は居住地として利用され、雄二と由美子はその管理をすることになります。天音とマキナは料亭へ弟子入り、みちると幸は別の学園に転校することに。
さらにその後、由美子は道昭の遺産を継ぐことになりますが道昭は行方不明に。密かにその行方をJB経由で調査していた雄二はその行き先を突き止めます。道昭は誰にも見つからないよう、由美子の住んだ家や実家、そして妻が入院していた病室等を訪れていました。幼い頃から父親の傀儡として育てられ、代用品として会社を大きくする人生を送った道昭。最後に道昭は娘を幸せにしてやってくれと雄二に頼みます。
で、さらに数年後、雄二と由美子には娘が生まれ幸せに暮らしましたとさ。
といったところで由美子シナリオ完了。
ううむ中々長いシナリオでしたが、デレた後の由美子の破壊力は中々ありましたw 相変わらず雄二は完璧超人でかっこいいし。
というわけでようやく全ルートコンプ。いやいや久しぶりに骨のあるシナリオ分量で少し疲れましたw
これで共通ルートがつまらなかったら長いだけにかなり苦痛の内容だったんでしょうけどもいや、ほんと良かったです。主人公の過去や一姫、師匠、JBの辺りは補完が欲しかった・・・というか5人終わったら主人公主体のグランドルートがあるんだろうなーと勝手に思っていたのでちょっと拍子抜けしたのはありましたね。ただ雄二が抱えるトラウマはヒロインと心を通わせる過程でそれぞれ解消されていくので必須というわけではなかったです。しかしながら天音ルートでの一姫の魅力に参ってしまった人は多いと思われるので(私含む)ファンディスクを望む声が多いのも納得でしょう。大体のルートでお世話になった刑務所にいるという”教授”とか”天才”とか呼ばれてた謎の人物・・・JBの意味ありげなセリフからも恐らくは彼女が一姫なんでしょうねえ。私としては作中の描写がほぼ無かった師匠についてはもうちょっと補完が欲しかったかなと思いました。
共通ルートの日常シーンはぶつ切りでショートコントを詰め合わせたものに近かったですが、あれが意味のないものって捉えてる人の感想とかもありましたがうーむ・・・。あの学園に居る全員が切実に願っていた何気ない日常ってだけで十分な意味があったと思いますけどねえ。そういう普通の生活、普通の幸せを享受することすら許されなかった子供達なわけで。何よりもその日常シーンが面白かったですしね。バランスのいいゲームだったと思います。
ちなみに個人的なルート評価は幸>天音>みちる>由美子>マキナ って感じですかね。本当に外れがない珍しいゲームなので中々甲乙つけ難いんですけど強いて言うなら。幸は文句無し。天音は終盤が弱いものの過去編のインパクトが強い。みちるはエンディングの演出が反則級。由美子は父親との和解までしっかり描かれたのが好印象。マキナは悪くは無かったのですが、妹の沙里奈と家庭の事情が投げっぱなしなのと9029を継がせちゃったのがちょっと納得いかなかったので少し下げ。といった感じですかね。
総評としては日常シーンは文句なく面白く、設定も濃く魅力的なキャラクター達。それぞれのキャラクターの過去はその人格を形成する説得力があり、昨今にありがちな記号的なヒロインではありませんでした。個別シナリオも分量もさることながらそれぞれ起承転結がしっかりしていて読み易くかつ感動的なシーンもあり。グランドルートみたいなのを期待したのはただの勝手な想像ですので、気にしたら負け。非常にレベルの高い傑作だったと思います。方向性としては強いインパクトを残すタイプではなく黄昏のシンセミア等のように丁寧な作りで完成度の高さを賞賛すべき作品。個人的には2011年のトップを争いそうなポテンシャルを持ってるな、と感じました。最後にもう一声あれば9点の大台に乗ったかも。限りなく9点に近い8点。
うーむ、しかし今年は大作が多いですからねえ・・・今年の終わりには大作に埋もれて不遇の名作になってしまう未来が見えなくもない。
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