チラシの裏に書くようなことを徒然と。
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「誤解を解く努力をしないというのは嘘をついているのと同じ事なんだよ」
ようやく物語シリーズの刊行速度に追いつき、現存する最新巻、鬼物語が読了出来ました。これでセカンドシーズン最終話・恋物語の刊行を待つことができます。
以降ネタバレ感想ですのでご注意をば。
今回は傾物語とは逆、というか対になる構成になっていました。傾物語は八九寺真宵をキーとしながらもその内容は、傷物語の続編であくまで暦と忍の絆を描くものでした。しかし本作鬼物語は、遭遇した怪異ですらない「くらやみ」に関する忍の昔語りが大半を占めるものの、実質的な内容は、不自然な存在であった八九寺との別れに集約されています。表紙逆の方がいいんじゃね、と思った方が大半でしょうw
で、あとがき詐欺で定評のある西尾氏。今回もやはり猫物語(白)の裏で阿良々木さんが巻き込まれた模様の神原の猿の手に纏わる事件に関しては、臥煙伊豆湖の依頼だったということしか判明せず内容については不明なまま。おい、この話が明かされるとかいってなかったかね。傾物語のあとがきでも花物語はこの直後の話ですよ、とか詐欺ってたし、サードシーズン書くだろうなあ、とか言ってたのは逆にもう書かないぞって意思表示なのかも。
暦とのペアリングが切れてヤバそうだったのも実は忍には危険はなかったし、阿良々木さん自身は今までに比べればそれほど危険ではなかったというオチ。
さて、八九寺真宵の存在が不自然だったことは誰もが承知していたと思います。化物語で彼女の物語が一応の解決を見たにも関わらず、二階級特進で現世に残った時は、ヌルイけどコメディたっぷりの作品だしこんなものかな、と思っていました。そして物語が展開していくに連れ、彼女はマスコットキャラクター的に扱われそこにいるのが当たり前になっていきます。
しかし、自分と向き合うことがテーマであり、とかくシリアスなセカンドシーズンでそのままでいられるはずもなく、最も残酷な現実と向き合うことになった彼女。それは自然な展開ではありましたが、阿良々木暦が納得出来るわけもなく、取り乱して八九寺をなんとか現世に留めようとする。そんな彼を優しく諭し、十分に楽しかった、幸せだった、と笑みを見せる彼女は年不相応に大人で、傾物語で出会った平行世界の彼女を思い起こさせる姿だった。
で、感動的な別れのシーンが描かれたわけですが、後日談で忍野扇が、本当にいなくなったのならね、とか意味深な事言うから本当に八九寺が成仏したのか分からなくなってきました。叙述トリックを持ちだして揶揄してましたし、彼女と再会する余地も意外と残されている気もします。彼女が無くなって十年立つ訳ですし、陳腐ですけど同じ11歳の八九寺真宵の生まれ変わりが既に存在しているとかね。ただもしその辺を描く場合サードシーズンとなるのは間違いなさそうですね。まあ臥煙姉妹やらエピソードとの共闘やら色々な伏線を張りっぱなしだし、その辺含めてやはりサードシーズンあるのかなあ。恋物語だけで解決するとはとても思えないし。
・・・とかいってみましたが、どんな結末にしろ阿良々木さん達と楽しい時間を過ごした八九寺真宵が帰ってくることはないんだろうな。西尾氏の今までの作風から見て、そんななまっちょろい話を描くとは思えない。阿良々木さんはきっと全部受け止めてずっと引き摺りながら必死に生きていくしかないんだろうなと思います。ガハラさんや委員長のように。
余談ですが、私が愛してやまない漫画家・藤田和日郎氏は、作中のキャラは登場した時点で最後に死ぬかどうかを決めているとか。うしおととらもからくりサーカスも終盤になるとガンガン人が死ぬ漫画ですが、その生死を分けているのは後ろめたい過去や後悔の人生を歩んできた点があると思います。例え今が善人であっても等しく裁きが与えられる。しかしその散り際はかくあるべしというか、鏢さんも秋葉流も、阿紫花もヴィルマも皆、過去を払拭し浄化されたかのような満ち足りた顔で逝きます。
で、西尾氏も多分この「八九寺が消える」という結末は最初から決めていたことで、鬼物語はその花道として用意された作品だったんだな、と感じました。彼の作品では不自然な存在は決して許されず等しく罰が与えられるのでしょう。モラトリアムがあればこそ裁きの瞬間が映えるわけですが。
じゃあ次に裁きを受けるのは誰なのか。神原、羽川、戦場ヶ原は自分と向き合うことで不自然さから脱却することに成功しました。千石撫子は現在に限りますが、クチナワの怪異として至極自然な存在です。結末はこれからですけどね。
で、残るのは阿良々木暦と忍野忍。一応、殆ど能力を失った吸血鬼とその眷属という関係であるので、怪異としての存在に不自然性はないと語られていましたが、どう見ても不自然だと思うんですよね。都合の良い時に吸血行動を行い、超人的な力を得られる。リスクもなし。吸血鬼としての怪異性って人間を捕食し、場合によっては眷属にすること、なわけですが、彼らのどこがその怪異性を示しているというのか。そんな都合の良い状態が自然であるはずもなく。恋物語でそこまで描かれるかどうかは微妙・・・というか多分描かれないでしょうが、物語シリーズの〆として、彼らの関係はいつか終わりが来るだろうと予想しています。
さて、物語の主軸ではなかったのものの、忍の過去が大方明らかにされました。彼女はあっけらかんと語っていましたが、阿良々木暦が感じたように自分を神と慕ってくれた村人達や、神としてではなく対等に扱ってくれた初代怪異殺しを失った「くらやみ」に纏わる神隠しの事件は彼女に暗い影を落としたに違いありません。幾度と無く阿良々木暦さんに対しフォローしてたのがなんか可愛いかったですが、初代怪異殺しとの関係は語られた描写程軽いものではなかったんだろうなーとか勝手に想像しています。
彼女の昔語りは自分が神であるという誤解を解く努力をしなかったがために天罰が下る、という最後の八九寺との別れへの壮大な前振りであるので淡白ながらも重要な意味合いがありましたね。
本作の全体的な感想としては、展開に驚かされることもなく、八九寺との別れ以外は淡白な内容でした。そしてその別れ自体もここまで引き伸ばされた予定調和といったところですので、感動はあるものの本作品が特別評価出来るという内容では無かったのも事実ではあります。
物語シリーズもいよいよあと1巻。ガハラさんが語り部になる、みたいなことがメタ的に語られていましたが、普通に阿良々木暦視点な気もするし、ハイブリッドだったりするかも知れませんし、そもそも絶対に撫子の事件が語られるという保証もないので(今作で改めて感じましたが)、あまり期待しないで待つのが良いかな、と思いました。
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