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チラシの裏に書くようなことを徒然と。 Since 19,Feb,2007
 SF作品の中には、ファーストコンタクト物というジャンルというかテーマがあります。これは、ミステリ小説における本格ミステリという関係に似ていて、異星文明との接触というSFの中でも王道で最も盛り上がる瞬間を描くために作られた作品群です。SFというジャンルを代表する最も普遍的なテーマ。それはSF作品が生まれた瞬間から、数多くの作家が手がけてきた手垢にまみれた物語です。星を継ぐもの、未知との遭遇を始め、エイリアンやインデペンデンス・デイだってファーストコンタクト物と言えます。
 
 また、SF作品はハードSFとそれ以外(しばしばソフトSFとも称されますが)に大別されます。ハードSFであることの定義は明確になっておらず個人の見解によって異なると思いますが、基本的には現人類がいつかは実現可能である世界、あるいはそう思わせる程の説得力を持たせた作品であるか否かだと思います。こういった作品は、物語のドラマ性などを削ってでも未来技術のディティールを濃く描写することに注力するものが多いです。
 
 
 で、この野尻抱介氏の「太陽の簒奪者」は、異星文明と人類の接触を描いた、ファーストコンタクト物であり、圧倒的なディティールに拘ったハードSFでもある作品です。にわか中のにわかである私は、日本人作家でこのような作品が存在すること自体、寡聞にして知らなかったです。
 
 
 2006年11月。水星の太陽面通過というアマチュア天文家の一大イベントの日、水星に起きた異常事態に世界中が沸いた。太陽の中に泳ぎだした水星から伸びる一本の筋。その巨大な建造物は明らかに人工のものだった。その後の研究で、それは水星に建造された巨大なマスドライバーから射出される水星の鉱物資源であることが判明する。そしてその鉱物資源は、黄道面上で太陽を取り囲むように形成されていき、そのリング状に構成されたものは、太さを増し続けやがて地球への日照量の急激な低下を引き起こすこととなる。
 
 8億人の犠牲を生んだこのリングを破壊するためのミッションには、一人の日本人女性が参加していた。異星文明との邂逅に焦がれ、水星の太陽面通過時の最初の兆候からずっとリングを追いかけ続けていた白石亜希。彼女を乗せた宇宙戦艦が水星に旅立ち、人類の危機を回避する第一部。そしてビルダーと称された異星文明と白石亜希の真のファーストコンタクトを描く第二部へと続く。
 
 
 あらすじはこんな感じ。ハードSFだけあってそれなりに専門用語も多いのですが、変に用語を羅列して煙に巻いたり、にわか置いてけぼりの内容にはなっていないのが非常に好印象でしたね。細かい内容は分からずともなんとなく想像出来て、割とすんなりと物語の展開についていける文体でした。専門用語を勉強して再読したくもなりますけどね。
 
 
 以下ネタバレ感想となります。




 主人公の白石亜希は、異星文明との接触を夢見る花の女子高生。・・・と書くとポップなラノベっぽい内容を想像するでしょうが、一部でリング破壊に向かう時の亜希の年齢は31才。二部に至っては51才なんですよ。これもハードSFならではの要素と言えるかも知れませんね。ソフトSFならば、女子高生がなんやかんや理由付けられて異星文明とのコンタクトを図る事になる方が、エンターテイメント的には盛り上がりますもん。実際、野尻氏は女子高生が宇宙飛行士に抜擢される、という内容のラノベ作品を手がけていたみたいですし。
 
 水星へ旅立つことを考えたら、リアリティを考慮するとこのぐらいの年月が掛かってしまうのでしょうね。ただし年月が経っても白石亜希の本質は何ら変わることはなく、むしろ自らの手で、異星文明との対立関係を作ってしまったのではないか、という罪悪感がある分、彼女のビルダーに対する憧憬の念は深まる一方でした。彼女が生涯を掛けてビルダーとの対話を望んでいたことが一つのポイントになってます。
 
 
 
 
 
 異星人の正体は、本作では、手の生えたコブラのような生物として描写されていました。数十年に渡り人類を苦しめ、地球からの交信を無視し続けた謎の異星文明の主としては、やや拍子抜けな感もありました。個を無くし、群体として機能するといった地球とは異なる進化体系に連なる生物としては、地球の有機体と特徴が共通し過ぎるような感じがしました。まあ彼らは進化途中みたいなので、これからより個という概念を捨てた生命に相応しい見た目に変わっていくのかも知れませんけどね。しかし肝と言えるこの瞬間から逃げずにしっかりと描いたのは好印象ですね。一時期のSF映画でありがちだった、異星人の正体も目的もよく分からないまま地球が救われて終わり、みたいな展開はもう沢山ですしね。
 
 ビルダーという生命の価値観や進化の推移等などが明らかにされていて十分なカタルシスを得られたのが良かったです。交信を無視したりファランクスからの接触を拒否したりと、人類への友好的な要素が皆無だった彼らは、単純に人類という存在を感知出来ていなかった、というオチ。自然に適応しようとする「適応型生命」は、彼らにとっては自然の一部であり、関心を持つ対象ではない。だからこそ検知することも出来なかったのですね。
 
核兵器の衝撃により一時的に全から切り離された「アリス」は、人工AIのナタリアを通じて、亜希に語りだす。
 
「ああ、無事だよ、白石亜希。」
 
このシーンの亜希の心情を考えると実に感慨深いものがありますね。彼女の追い続けた夢が叶った瞬間です。他の生命体に害を及ぼすことは、彼らの本意ではなく、人類の存在を感知したビルダーは、他の惑星系への移動を始める。結末は少々トンデモ展開に感じましたが、物語として美しい終わり方でしたね。
 
 
 非常に面白く、ワクワクして読めたSF作品でした。ハリウッドで映画化してもいいんじゃないだろうかって思うぐらい。ビルダーとのまともな争いがないので、映像作品的には盛り上がりに欠けるのかな?それにしても、ハードSFとしての完成度や、ビルダーの異質性、白石亜希を中心とした人間ドラマなど、全てにおいて濃密でクオリティの高い作品だったと思います。言ってて思いましたけど、映画化したとして2時間じゃとても表現しきれないですね・・・。



 

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