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チラシの裏に書くようなことを徒然と。 Since 19,Feb,2007
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京極夏彦氏のデビュー作であり妖怪シリーズの第1作、姑獲鳥(うぶめ)の夏です。
メフィスト賞0回受賞作とも称されるメフィスト賞を創設した作品でもある、色々とすごい作品です。この文量と内容の作品が初めて書いた小説だとか俄に信じられないのは無理ないですよね、本当にw


三文作家の関口巽は、友人で古本屋「京極堂」を営んでいる中禅寺秋彦を訪ねる。関口は京極堂に、巷で噂になっているとある医者一家の二十箇月の間子供を身篭っている妊婦の話を持ちかける。夫は1年前に行方不明、家に伝わる憑きもの筋の呪い、連続発生した嬰児死亡事件の疑惑。数々の不可思議な謂れを抱える久遠寺家。超能力探偵・榎木津や京極堂の妹・中禅寺敦子らも巻き込み関口は久遠寺家に関わっていくのだった。

あらすじとしてはこんな感じ。主人公の関口は、語り部として読者と同じ視点を持つ人物。博識な京極堂の語る難解で荒唐無稽な理論や榎木津の破天荒な言動に右往左往する一般人ですね。


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前半はただただ唖然とする展開でしょうねw 一応ミステリに属する小説だとは思うのですが、その事件現場、当人に話を聞くまでに600頁もの分厚さを誇る本作の1/3は消費しているという作風。京極堂が、一見事件とはなんの関連もないような人間の心と意識、脳と記憶、仮想現実などの理論を延々と関口に聞かせるわけです。ここで挫折する人は少なくないような気がします。それでもそれらの理論がただの知識のひけらかしではなく、むしろ終盤で明らかになる真実の裏付けになることにこの作品の凄さがあるわけです。私的には初めて聞いた理論というわけでもなかったので、飛躍し過ぎな所感もありながら、知識欲を満足させてくれる内容だったので楽しめました。

なによりも斬新だったのが、神社の神主でもあり、副職で拝み屋でもある京極堂自身が、幽霊、妖怪、果ては宗教そのものも現実には存在せず、全ては個々が見る仮想現実に過ぎないのだ、という旨の話を断言してしまうことですね。それが仮想現実だったとしてもある種の必然性を伴って生まれたものには違いないので、現実と同意とも言えるのですが。この理論もまた久遠寺家に纏わる噂に深く関わっていました。

そんな話を聞きながらもまともには受け入れられない関口自身が、その理論を体現してしまうという展開もまた面白い。

ただし、涼子と梗子の入れ替わりはすぐに想像出来ても、密室のからくりと久遠寺牧朗の死体については想像の範疇を越え過ぎていて作者と読者の戦いには成り得ない、と個人的には思うため、ミステリ小説としては多少疑問が残ります。素直に京極堂の憑落しにひたすら身をゆだねるのが、この小説の正しい楽しみ方かなと思いました。


京極夏彦氏著の巷説百物語は、この京極堂シリーズとは逆に悪人共を巧妙な策略により魑魅魍魎の仕業に見せかけ懲らしめるシリーズでしたが、世の不思議な出来事は全て人の心次第で虚構にも現実にもなってしまうというテーマは両作品に通じていますね。京極氏の描く世界の一端が見えてきた気がしました。


単純に世の在り方の一論としても興味深い内容ですし、ミステリ小説、伝奇小説としての楽しみ方も出来る作品ですのでその文量と京極堂の畳み掛けるような論調にへこたれない人には大変オススメ出来る作品です。
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